作品の評判も良いです。特にジョッキーの福永祐一氏(05年米国オークス制覇時の騎手)がえらく喜んで…、彼が「ありがとうございます、あれいいなぁ」と勢い込んで言うことなんてめったにない。角居勝彦調教師も「素晴らしい!」を連発しました。
2005年、米国G1レース(アメリカンオークス)で日本馬として初の栄冠を勝ち取ったシーザリオ号。引退した今もその雄姿(雌姿!)はジャーシャン・ベイ作品の中で輝いています。馬主の(有)キャロットファーム社長・髙橋二次矢さんにお話を伺いました。(聞き手 酒井 純男)
酒井:馬の仕事をしていらっしゃる髙橋社長にとって、馬に魅かれる点はどんなところですか?
髙橋:馬は体が大きいのに優しくて従順で、見ているだけで癒されますね。人間との関係が長いから利口だし、対等に付き合える。レース中にジョッキー(騎手)が落馬してもよほどのことがない限り、馬は人間を踏みません。そこから、車のラジエーターに蹄鉄をつけて、お守りにするほどです。
酒井:一口数万円からでも競走馬に出資できるそうですね。出資者はどんな基準で馬を決めていらっしゃるんでしょう?
髙橋:我々から薦める場合もありますが、90%以上の方は自分で、血統や過去のデータから将来を推理して決めます。熱意があるから凄く詳しいですよ。出資者募集の受付日は、有給休暇を取ってお電話くださる方もいます。自分で選んだ馬が優勝なんてしようものならもう大変!それは嬉しいですよ。
中には採算が取れていないお客様だっているかもしれません。それでも後悔しないどころか、出資した馬が出る地方の競馬場のレースを、飛行機に乗って北海道や小倉まで見に行くんですから。出走が決まるのは木曜日、レースの三日前くらいなので格安チケットも買えません。
先日、京都で開いた当社のパーティーにも、愛媛県や岩手県からのお客様がいました。ありがたいし、我々もお客様方を裏切らないようにと心しています。
酒井 市場に関係なく自分が惚れたものを追いかける、という意味では、絵画ファンとも共通点がありますね。
髙橋:おっしゃるとおりです。馬はある程度の年齢になれば(現役を)卒業するので、「投機」の対象になり得ない「投資」なんですよね。自分でまるごと1頭持てば、種馬になったり、高値で売れたりするかもしれませんが、それはもう稀なケースです。
もうひとつ、「競馬場に行ったら馬券購入が最優先」という出資者は非常に少ない。馬券の結果に一喜一憂する人と、自分が選んだ血統の馬を見守る人とでは違うんですよ。だからJRAの売上に100%貢献しているかというと必ずしも…(笑)。
酒井:ブロンズ像などの選択肢もある中、華々しい戦績を残したシーザリオ号を絵として残そうと思われたのはどんな理由でしょうか。
髙橋:シーザリオは、日米のオークスを制覇した日本初の馬でもあるので、ちゃんとした油彩画で記念になるものを作りたかったんです。
有名な彫刻家にブロンズ像を作ってもらったこともあるけれど…僕はやっぱり絵の表現がいい。子供の頃から絵を描くのが好きで、学校の点数もよかったんです。今でも描いたり見たりするのは大好きだし、これからも絵に囲まれた生活をしたいと思っています。
けれども、馬の絵というのは立ち姿や牧場で遊ぶ姿が多くて、馬本来の「走る」という特性が感じられるものはなかなかない。
たまたま通りかかったシルクランド画廊でベイ作品を見て「あ、これだ!」と。馬をよくよく知る人でないとあそこまでは描けない。勝とうとする馬が「自分が一番だ!」と懸命になる雰囲気がある。作品を依頼した理由は、もうそれだけです。
作品の評判も良いです。特にジョッキーの福永祐一氏(05年米国オークス制覇時の騎手)がえらく喜んで…、彼が「ありがとうございます、あれいいなぁ」と勢い込んで言うことなんてめったにない。角居勝彦調教師も「素晴らしい!」を連発しました。
酒井:数多くいる画家の中からご指名下さったベイ先生に、今後描いてほしいテーマはおありですか?
髙橋:四月に生まれるシーザリオの子供を描いてほしい。成長が早くて一週間でガガガッと姿が変わるので、いつ、どういうカタチで捉えるかは難しいですが、描きとめておきたいと思ってます。子供は最大の楽しみです。
あとは、先生がいるメルボルンの大きなレースに出たことがないので、出場して勝ったらその馬も描いてもらいたいですね。
酒井:これからも競馬ファンに夢を贈ってください。本日はどうもありがとうございました。


ギャラリー通信#13(2007年4月) インタビュー記事より