アーティストインタビュー

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丸山 友紀 先生

丸山 友紀 先生

プラスな感情が出るような絵を心がけていますね。

丸山:絵って、人と同居することと似ていると思うんですよ。 ちょっと控えめだけど、楽しい感じの人と一緒にいた方が気楽でいいなとか。 ですから、穏やかで控えめだけど、プラスな感情が出るような絵を心がけています。


● 日本画を目指すきっかになった出来事や、影響を受けたアーティストなどありましたらお聞かせください。
丸山:中学生の頃、セゾン美術館にしょっちゅう行っていて、それで美術家って カッコいいなっていう単純な動機で芸術家になりたいと思っていた。
けれど、半年間受験用の油絵の勉強をしていたら絵を描くのが嫌いになってしまって、それで、早稲田大学の美術史学へ進んだんです。
描く方ではなくて、研究する方で、専門は仏教美術。研究者になろうと思ったんですが、技法的なことを何も知らないのもおかしな話なので日本画のカルチャースクールに行きました。

そこで、先生に勧められて初めて日本画ってものを見たんです。上村松園の『砧』っていう絵を観て、すごい衝撃を受けた。形と色と線だけで絵を成立させることができるってことが衝撃的で、それから日本画に興味を持ちました。それからどんどん古いものの方が新鮮に見えるようになってきたんです。なぜ、自分が絵を描こうかって思ったかっていうと、古い時代の絵はすごく洒落ていて強いのに、古い絵にある良さが現代にあまり引き継がれて ないなって思ったからなんです。

影響を受けたアーティストっていうのは、日本の古い絵を描いている人たち。土佐派、狩野派、長谷川等伯とか、仏教美術、平安時代の仏画とか。
今描いている絵に影響が出ているのは、古い宗教画ですね。ヴィザンチン美術とか。一番好きな絵描きは、宗達なんですけど、上手すぎて目指すことができない。
宗達の絵を見ると、自分が絵を描くことが嫌になってしまうほどです。

● 現在の作品の特徴といえる、金地の鳥獣画は日本画を描き始めた頃から一貫したテーマなのでしょうか?
丸山:大学を出た後、早見芸術学園っていう日本画の専門学校に二年間行き、その時に初めて金地の絵を描きました。学生時代は、絵のテーマとして、何を描いたらいいのか全然わからなくて、とても苦しかった。自分の中に、絵になっていくような、激しい情動とかがなくて、感情的な混沌としたエネルギーとかもなく、じゃあ何を描いたらいいんだろうってすごく悩んでいたんです。

結局、自分の中にあるものって、趣味的なもの、こういうものを洒落ていると思うとか、例えば文学で、こういう傾向のものが好きだとか、こういう絵の傾向が好きだとか、趣味しかないなって思ったんです。
初めて描いた金地の鳥獣画は豹を描いているんですけれど、内田百閒の『豹』っていう小説から影響を受けています。内田百閒の小説のテーマは「夢」なんですが、「夢」に対してもずっと興味があるんです。夢の意識のイメージにぴったり乗っかるのが動物だったんですよね。だから、私にとって、「夢」と「動物」っていうのは繋がるんです。

● 鳥や動物たちにはどのような想いを込めて描いていらっしゃるのでしょうか?
丸山:動物の絵を見た人で、「かわいい」って印象が一番多くて、嬉しいんですけれど、描いている方としては、異質の存在に対する畏れとか、憧れとか、驚きや興味を持って描いていますね。ちょっと、畏れ多いという感情で、動物を描いています。だから、金地が背景になっていて、荘厳してる形になるんですけれども。

それから、人の思い入れがあるものって面白いんですよ。自分が全然興味がないものでも、ある人がある動物にすごく思い入れがあるっていう熱量を感じると、自分の面白い対象になってきてしまう。そういうプラスの感情が絵から出ているのが好きなんですよね。絵って、人と同居することと似ていると思うんですよ。すごいパワーがあって面白い絵だけど、家に飾っておくと疲れちゃうとか。やはり、ちょっと控えめだけど、楽しい感じの人と一緒にいた方が気楽でいいなとか。ですから、穏やかで控えめだけど、プラスな感情が出るような絵を心がけていますね。

● 好きな文学、音楽などからも、インスピレーションを受けて作品に取り組まれることはありますか?
丸山:音楽からは、造形的なものは出てこないですね。小説なんかは、読んでいる側からどんどん映像が出てきます。人が書いた小説とか、人が描いた絵から、あるいは動物から直接インスピレーションを受けて、そこから制作しています。特に、自分の絵の制作の基になっているのは、埴谷雄高と澁澤龍彦ですね。埴谷雄高は、夢の中のものの考え方とか、人間とは違う意識っていうありかたを考えるきっかけになっている。小説のどの場面っていうことではなくて、動物を描こうっていうことの気持ちの根本のところは、埴谷雄高からきている気がします。特に、『意識』っていう小説に出てきたことが。

● 今後、新たに挑戦してみたいことなど、お聞かせください。
丸山:今までは人間と違う異質な存在がたくさんあるんだなってことをテーマに描いたんですけど、これからは、もっと範囲を狭めて、 本当に自分が身近に感じているもの、こういう生活をして、こういう国に住んで感じる動物観、動物に対する感覚、そういったものを描いていきたいと思います。

 

ギャラリー通信#29(2010年9月) インタビュー記事より