アーティストインタビュー

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田中 善明 先生

田中 善明 先生

僕は街が好きで、 そこに住む人が好きなんです。
モチーフは、 人との出会いの中にあります。

田中:パリのアパルトマンから眺める風景も、街角の酔いどれた老人や若者たちも、どれも街が好きで、そこに住む人が好きで湧いてくるモチーフでした。


● 絵を志したきっかけなどをお聞かせ下さい。

田中:小学校六年の誕生日に油絵のセットを買ってもらったのがきっかけですね。子供の頃から描くのは好きでした。
中学、高校とスポーツに没頭した時期もありましたが、高校三年の時初めて美術部に所属して真剣に取り組み始めました。19歳で美術団体の公募展にも出品しましたが、20代以降は、画家の先輩の誘いもあって、スペイン、フランスを遊学して過ごす時期が続きました。

 

● 70~80年代にかけてのヨーロッパでの体験、また今の画風を築くまでのことなどお聞かせ下さい。

田中:若い頃は現代アートをやっていたこともあって、はじめはニューヨークに行きたかったんです。ただ当時の現代美術には強い思想が必要だったり、自分に合わない要素を感じてしまって、スペインやパリに向かいました。物価の安いスペインで苦学生として学び始めましたが、プラド美術館には繰り返し何度も足を運びましたね。

同時に先輩とカフェやバーに入り浸っては、ずいぶん無茶な飲み方をしたこともありました。ただ、当時の体験は僕にとっては何ものにも代えがたい貴重な経験になっています。若い時分ですから、怖い体験談もありますが、それはまた別の機会に・・・(笑)

30代に入ってからは無所属でやるようになりました。画家も色々なスタイルがあると思うんです。体験から生まれるパリのアパルトマンから眺める風景も、街角の酔いどれた老人や若者たちも、どれも街が好きで、そこに住む人が好きで湧いてくるモチーフでした。

ただ、多くの方に共感してもらえるかどうかは別でしたので、否定されることもありました。そこで、僕はもっと楽しめる絵を描こうと思いまして、老いた酔っ払いに楽器を持たせてアコーディオン弾きを描いたんです。するととても良かった。ベースマンとピアノ、このスタイルもいいなと、それからシャンソン、ジャズ、クラシックをテーマにした絵、主に演奏家たちに光をあてた絵を描くようになったんです。

今はそのスタイルに時代性や現代感覚も取り入れながら、僕が本当に表現したいものを常に研究しています。そうしていくことで、他とは違う僕だけの世界を描けるのではないかと思っているんです。

 

● 先生のように厳しい体験を積んできた人だけが表現できる、輝くような一瞬という絵もありますよね。カフェや酒場に集まる人々や、ミュージシャンを描くきっかけも体験からでしょうか。

田中:今は鎌倉に住んでいますが、生まれも育ちもずっと横浜でしたから、特に本牧での生活は今のモチーフに大いに影響していると思います。
ショットバーなどで、気の合うミュージシャンや、役者さんなど、人生を楽しんでいる人たちとの出会いは貴重です。結局パリでも日本でも、色々な場所の要素を取り入れて僕のイメージでバーやカフェなどを創っていく。それを俯瞰するように描いて、人物の動きやバンド編成が重ならないように描いています。

 

● そんな先生が影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか?

田中:プラドにも収蔵されていますが、ゴヤは一番好きな画家ですね。その他、画風としては学んだ国のバックボーンのせいか、クラシックな重厚路線に興味が強くありましたし、自身でも描いていました。将来的に、またそういう重厚な趣きのものも発表していける時期があっても面白いんじゃないかと思ってますが、それはまだ先の話になりそうです。

 

● 赤を用いた画風が印象的ですが、赤色に対する想い、こだわりはありますか?

田中:美術館で観た名画の中で、素晴らしいと思う作品には必ずといっていいほど、赤を効果的なアクセントとして使った絵が記憶に残っていました。それで僕は赤を使えなきゃだめだろうって思った。「楽しめる」「安らげる」という色彩表現だけでなく、どこかで攻撃的な部分を生み出そうとする気持ち、エネルギッシュな赤も取り入れようと考えています。

 

● お客様との交流で嬉しかったエピソードなどはありますか?

田中:お客さんから教わることはたくさんありました。演奏家の方が楽器の持ち方の微妙な違いを教えてくれたり、暗いライトの下で把握できていない細部の表現など、バイオリン、サックス、ピアノ、いろんな奏者の方に教わりました。一番嬉しいのは、「この絵を観ているとホッとする」とか、「この赤は元気が出る」って言われると、自分がやろうとしていることが確かに通じているんだと思って嬉しくなります。

 

● これからの活動はどのように考えておられますか?

田中:僕は人や街が本当に好きなんです。これからも行く先々で必ず人との出会いの中にモチーフを見つけていくことになると思います。
風景だと北フランスは描いてみたいですね。オンフルールの街にはぜひ家族で行ってみたいです。

 

ギャラリー通信#33(2011年1月) インタビュー記事より