中国の美術オークションのあゆみ
十数年前に始まった中国の美術オークションは、ここ2~3年で急激な盛り上がりを見せています。
05年春には市場規模が最高潮に達し、美術理論の専門家・劉傳銘氏によると「北京、上海の美術オークション会社数社分だけで年間落札総額が100億元(約1450 億円)を上回る」と言います。
今回視察した洋画オークションは、200点近い出品作がすべて中国人画家(在外を含む)の作品でした。かつての中国で洋画(油彩画)といえば政治的表現を含むものが大半でしたが、それも現在では抽象具象はもちろん、表現も自由なものばかりです。
美術オークション市場が誕生した当初、書や中国画(墨や岩絵具による作品全般)、骨董、陶磁器が主流だったことを考えると、内容の大きな変化が市場の急成長を支えていることがわかります。
市場拡大の背景
■ ライフスタイルの西洋化
開発の中心となった大都市では建築ラッシュが起こり、新築物件の大半は高層ビルなどの洋風建築で、それに合う「西洋風アート」、洋画に大きな需要が生まれました。
中国で暮らす外国人の間で、すでに中国の洋画が人気を得ていたことも市場活性化の材料となりました。また同じ頃に、著名な洋画家の逝去や、80 年代に留学してそのまま海外で暮らす中国人画家たちが注目を集めていた事も追い風になりました。需給バランスが整った今、市場における洋画の割合が高まったのは自然な成り行きと言えます。
■ 不動産バブルの飽和・株式市場の不振
バブル景気社会に世界中のアートが集まるのは、過去に日本が経験したとおりです。建築ラッシュが沈静化して株式市場が頭打ちになると、投資家の関心は美術市場に向かいました。
2005年の光と影
年間売上高の最高記録を出した05 年は、明るいニュースばかりではありません。早くも同年秋冬には市場が急激に冷えこみ、活発な議論を呼びました。今春になって落ち着きは取り戻したものの、現在もなお次のような問題点を抱えています。
■ 新興画廊の未熟さ
急成長する企業のオーナーたちや、また北京、上海など大都市に赴任する外国人をターゲットにした、新タイプの画廊街が誕生しました。オークション市場とが動き出すのはほぼ同時期でした。
■ 贋作問題
近代洋画の需要拡大につれて、大物物故作家の贋作が出回り、訴訟に発展するケースが出てきました。現存作家人気の裏には「贋作の可能性が低い」=投資リスクが少ない、という側面があります。
■ 売り手側の裏操作
好景気で強気になった売り手からは、競りの価格操作をする動きがでてきました。
■ コレクターの投機
ここ数年の値動きを読み、投機目的で美術品に関わる人々も増えました。買値の数倍から数十倍の価格で転売するケースも出てきました。最高潮と、急激な冷え込みを経験した05 年の美術市場では「むやみに値をつり上げたバブル期の教訓」として語られています。
これからの展望
■ 市場の成熟と秩序
2008年の首都北京で迎えるオリンピックや、2010年の上海万博の経済効果で、景気向上にさらなる期待が高まっています。
画廊やオークション会社はもちろん、中国の美術市場全体が過渡期にあるなか、上海藝術博覧会委員会の陳貽森氏は、経済発展とともに美術市場が前進するために
・美術業界の土台となる「画廊の姿勢」
・作品を手にする「コレクターのポリシーや審美眼」
・「評論家の参入」
などが必要条件だと語ります。
経済の発展とともに、浮沈を経験しながら成長する中国美術界。この市場を、今も世界中が見守っています。
「参考資料: 雑誌『上海藝術家』2006 年No.1(中国語)」
ギャラリー通信#7(2006年9月)より