空想の中から生まれたヒーローと怪獣たち
1960 年代に起こった怪獣ブーム。『ウルトラQ』、『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』は現在でも放映を重ねるほどの人気です。なぜ、こんなにも空想上のヒーローや怪獣が一般に受け入れられ、ブームになり、世代を超えて人気があるのでしょうか。 そこには、このシリーズをデザインした成田亨という人が欠かせません。初期のウルトラマンシリーズは、脚本が金城哲夫、監督は実相寺昭雄、デザインを成田亨、その怪獣を立体化した高山良策、そして、成田さんの後を受け継ぎ『ウルトラセブン』の怪獣デザインを手がけた池谷仙克によって制作されました。 この展覧会では、直接、怪獣を展示せず、デザイン画、絵画、彫刻などを展観していたため、怪獣作品を新たな視点で観ることができました。
大衆が支持するもの
1960 年代はテレビが各家庭に普及し始め、映画をはじめ、テレビは私たちの生活に欠かせないものとなっています。もはや、映画、テレビ、現在ではインターネットなどを除いては、現代の文化は語れません。 芸術は世相を反映するものであるといわれます。展覧会を観ていて、その世代を反映しているものの代表として、映像作品、造形作品、デザイン画、絵画が生まれ、大衆がそれを支持することはごく自然なことなのではないかと感じました。 浮世絵が、当時の人気役者や美人画などを描いたもので、庶民の間で大変なブームであったこと、そして版画という技術を通して、瞬く間に拡がっていったこと、後に、ヨーロッパでジャポニスムを生むきっかけになったことなど、今展の怪獣作品、絵画、彫刻などを観ていて、大衆の中から生まれる美術というものに共通する、力強さやたくましさを感じたのでした。
空想の中から生まれたヒーローと怪獣たち
古来から、空想上の人物や動物というものは絵画や彫刻にされてきました。あらゆる仏像彫刻、龍、鬼、天狗、飛天、数え上げればきりがないほどの空想上の生き物があります。 成田さんは「怪獣は、人間が考え出した人間を超えたものであり、神や鬼への畏怖であり、恐れである」と述べていますが、怪獣が海外でいうところの『モンスター』ではなく、どこまでも“日本の怪獣” であると感じたのは、成田さんが特撮という商業的なものにかかわりながらも、純粋な芸術家であろうとし続けたためでありましょう。 興味深かったのは、ウルトラマンのデザインがプラトン思想に基づいて造られ、怪獣をカオス、ウルトラマンをコスモスとして捉え、ウルトラマンの口元は古代ギリシャ彫刻のアルカイック・スマイルを写し取ったものだということでした。
美術の入り口は様々
展覧会場には沢山の人が訪れ、特に親子連れや若い男性が多かったように思います。ときどき、「これもアートなんだね」「楽しいからいいね」などという声が聞かれ、美術にはいろいろな入り口があっていいのだと思いました。そして、美術はとても身近なものであることを、この展覧会を通して感じることができました。 2000 年に描かれた『カネゴン』という作品は、バブルが崩壊した後の日本の風景 なのでしょうか。お金を食べていかなければ生きていけないカネゴンは、夕陽を見つ めて何かを考えているように思えました。。
(文責 佐藤孝子)
写真左:成田享、デザイン画の数々 ©成田流里
写真右:上下2作品 『カネゴン』2000年 右『カネゴン』1993年 ©成田流里
写真中央『 ウルトラマン マスク』1996年 ©成田流里