GMご挨拶

GM Message

富士山と私

富士山と私

2月23日、ご縁あって『富士山が世界遺産になる日』(著:小田全宏、出版:PHP研究所)の出版記念パーティーに出席しました。 日本人は富士山とどう付き合ってきたか、富士山はどんな精神性をもつ存在なのかという歴史を、世界遺産をめざす道のりと 合わせて紹介した本です。 読んでいるうちに、私は来日2年目に富士登山をしたことを思い出しました。

当時、私は朝7時からバイト、昼からは日本語学校、夜は深夜まで飲食店で働いて無我夢中の毎日。 知人に「気分転換に日本のシンボルに登ろう」と誘われて、大学時代に病弱だと思い込んでいた私が黄山を登った経験があって、 登山の素晴らしい達成感を思い出して快諾しました。 しかし、いざ登ると後悔の連続でした。 七合目付近で雲海の間から昇る朝日の崇高な美しさを見終えれば、あとは石ころだらけの赤い地面が続くばかり。 体力を消耗するにつれ、高度も上がり空気が薄くなってきます。 背負われて青ざめた顔で下山する人とすれ違い、もともと体力に自信のない私は弱気に拍車がかかりました。 八合目で「もう力を使い果たした」と思っていると、山小屋の方曰く「八合目でリタイヤする人が多い」とのこと。 負けず嫌いな性分で弱気な自分をぐっと抑え、心機一転、また山頂をめざしました。 その頂上で吹かれた強い風と眼下に広がる眺望は、忘れられません。 人間は、目標があって初めて前に進めるのだ、そう心と体で感じた瞬間でした。 全力を出し切ったかに思えた八合目から、あと少しあと少し、という踏ん張りがあったから成し遂げられました。 そう実感して以来、富士山は私にとって特別な山になり、あの八合目を乗り越えた経験はそれ以降、壁にぶつかる度に 私の心の支えになったのです。 久しぶりに富士登山の情熱を思い出した私は、この本にあった「富士は私たち一人一人の物語」という一節が心に残りました。

私たちシルクランド画廊が3周年を迎え、これからの新しい物語を皆でつくろう ――この思いが、夏、スタッフ全員で富士山に登ろうという計画につながりました。 どんなに準備万端で挑んでも、頂点をきわめるには頑張りあるのみ。 頂上で達成の喜びを皆と分かち合い、実りの秋を迎えたいと願っています。桜満開の銀座の画廊に生まれた小さな計画、 この結果は秋頃にご報告いたします。

 

※写真:富士山初登山(1990年)

 

2006年2月
                        シルクランド画廊  顧 定珍