「豪華な旅行をするくらいなら、学費をそのぶん安くしてくれればいいのに!」――そう思いながらしぶしぶ参加した一泊旅行でしたが、 私は画商となる最初のきっかけを得ることになります。
この研修旅行のコースには、エミール・ガレ、ドーム兄弟などの作品の蒐集で知られる「北澤美術館」の観覧も含まれていました。 アール・ヌーヴォーの世界に生まれて初めて触れた私は「こんなに美しいものが世の中にはあるのか!」と全身が震えるほどの感動を受けました。生活のことで頭がいっぱいだった自分が、いかに芸術を渇望していたのかに気がつきました。それ以来、アパレル関係で身をたてるつもりだった私が、暇を見つけては東京にある美術館をせっせと巡るようになり、画商への道のりを歩みだしたのですから、その旅行で、美術に出会ったお蔭だと言っても過言ではありません。
また、一流ホテルで一流のおもてなしを受けた経験も、"きちんと振舞う"ということを学ぶ貴重な機会でした。
「出会いこそが人生を変える」。文化女子大時代の恩師が贈ってくれたこの言葉を、私はこの夜、後輩たちに託しました。94年に卒業して13年半が経ちますが、まだ後輩たちに誇れるようなことは何もありません。ただひとつだけ確かなことは、たくさんの出会いが、私をここまで生かしてくれたのだということです。
リレーのバトンを渡すように、彼女たちがたくさんの出会いに向けてアンテナを張ってくれることを心から願っています。
2007年11月
シルクランド画廊 顧 定珍