留学生として来日して3ヶ月、私のアルバイト先の焼肉店に来られたのが、タクシン氏のご一行でした。拙い日本語で肉の焼き方を説明する私に「僕の父は中国人だから中国語でいいよ」と優しく話を聞いてくださった後、「大変だろうけど頑張って」とチップを出されました。日本に留学中の方々をお連れでしたから、私の境遇を察したのでしょう。どうすればいいか分からず辞退しましたが、通り過ぎる私のポケットにそっとそのお金を入れ、指を口にあてて「黙って」と合図されました。
3ヶ月間、言葉の壁とセクハラで、自信と夢を失いかけていた私にとって、タクシン氏との出会いは、精神的に大きな支えになりました。いじめる人もいれば、助けてくれる人もいる。また頑張ろう、と心に誓いました。
今年5月末、元駐タイ大使・小林秀明様の講演会で、タクシン氏の写真を目にしました。恩人に間違いないとわかった3日後に御礼のメールを送ることができただけでなく、昨日本人に直接御礼を申し上げることができました!
思えば私の22年間は、どんな時も、人に恵まれていました。二度と会えないと思っていた恩人に感謝の気持ちを伝えられたのは、講演会でお近づきになった小林様にご尽力いただいたお蔭でした。恩人に再会できたのは、知人の報道カメラマンの方のご親切で外国人記者クラブでの会見に出 そして、頼りない留学生だった私が、日本でこうして元気にやっていると報告できたのは、シルクランド画廊で、画家の先生方やお客様とのご縁があればこそ。タクシン氏との幸せな再会を果たした今、あらためて皆様お一人お一人に御礼申し上げたい気持ちでいっぱいです。
2011年9月
シルクランド画廊 顧 定珍